その音が消える前に、君へ。
「紗雪、熱くなってきた」
「……言わなくていいよ」
「やっぱり夢じゃない。現実だ」
そう言っては何度も私の頭を、背中を確かめるようにして撫でた。
私も腕を絢斗くんの背中へと回す。
きつく抱きしめ合うと、お互いの鼓動が共鳴するように鳴り響く。
絢斗くんが教えてくれた絢斗くんの音。
覚えていた音が今、ちゃんと聞こえてくる。
そして、彼の澄んだ音もしっかりと聞こえてくる。
「治療大変だったでしょ」
「それよりも言葉が通じないから大変だった」
「ふふ、何それ」
二人して笑い合いながら、過ごす時間は特別でこんなにも幸せなんだと改めて実感する。
この時間を、ずっと過ごしていきた。
私は…………
「絢斗くん、私ね。絢斗くんの事がーー」
好き、大好きでどうしようもないくらい君が好き。
そう言いたかったけど、口を優しい温もりに塞がれた。
近すぎる絢斗くんの顔に、惚けることしかできなくて。