その音が消える前に、君へ。



元々部屋に籠る質の人間な為、暑さにも寒さにも弱い私からしたら榊くんは仙人のように見えた。


天文学と書かれた棚の前で足を止めつつ、榊くんを盗み見た。


集中して着々と読み進める姿と、球技大会以来のあの透き通った音に吸い込まれそうになるのを必死に堪えた。


すると榊くんがこちらへと首を動かし、目が合ってしまった。


視線を送りすぎて、榊くんの集中力を乱してしまったと慌てて棚へと視線を動かすとガタリと席を立つ音が鈍くだが響いた。


こちらへ近づいてくる足音に背を向けたかったが、それをする前に榊くんがすぐ近くへとやって来た。



「なんかいいのあった?」



読み終わったのであろう分厚い文献を棚へと返し、また新しい文献へと手を伸ばす榊くんに小さく首を横に振った。


2時間ぶっ通しで探して読み進めては見たが、暑さのせいで頭に入っていないなど口が裂けても言えなかった。








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