その音が消える前に、君へ。
あちこちから響き渡る笑い声に、耳を傾けながら広い廊下で前を歩く榊くんの後ろ姿を見た。
突然の彼の誘いに戸惑う心が歩く歩調をぎこちなくしてしまう。
それなのに榊くんは後にも目があるかのように、私の歩調に合わせるようにしてゆったりと歩いていた。
当てもなく歩いているのか、それまた目的地でもあるのかそれすらも分からない。
ただ黙って榊くんの後ろを歩いた。
「あのさ」
会話のない私達の空気を震わせた榊くんが、首を真横に向けて話しかけてくると強張った私の体がその声にピクリと小さく反応してしまう。
ただ榊くんの位置からは、私の表情までは読み取れないはずだ……後ろに目がなければの話だが。
「この臨海学校の目的って一体何なんだろうね」
榊くんの質問に対して私も同意見だ。
学年の交流会でもなく、研究などといって課題を押し付け果たして先生が求める結果を出せるかと言われれば、答えはNOだ。
目的をもってやっていれば話は別だが、目的も何も言われずここへやってきて限られた日数でそれをこなすことは、いきなり右も左も分からない初めての土地で1時間以内にゴールへ辿り着けと言っていることと同じだ。
それに研究などとカッコよく言っていても、小学生の夏休みの自由研究と何ら変わらない。
それだったら小学生の自由研究の方がキットもあるし、大人の手助けもあるんだからよっぽど研究らしく仕上がるだろう。