その音が消える前に、君へ。
本当は来たくなかった。
やってもここでは……作られた檻の中では生徒達は先生の言う事をこなすことしか自由はないのだから。
それでも楽しめる人達は正直羨ましい。
“普通”を楽しめばいいのに、私にはそれが出来ない。
いや、それをしようとしないだけかもしれない。
「菅原さん?」
黙り込んでいる私を心配したのか、それとも軽い気持ちで投げかけた質問がこんなに考え込まれると思っていなくて慌てて声をかけてきたのかは分からない。
けどこれ以上また変わった人という印象を与えるのも、面倒になって冗談まじりに答えることにした。
「ーー何だろうね。目的もなしに国からの資金が余っているからやろうとしてみただけ……とか」
「ははは、それは国の税金の無駄遣いに関わってる俺達もなかなかに有罪レベルだな」
そう言って笑う榊くんの音が、微かにだが弾んだ気がした。
と言うか、ここ数日で榊くんのあの濁った音は聞こえてこない。
何だろうこの安心感に似た気持ちは。
関わらないようにと避けてきたつもりが、今は彼と二人同じ道を歩いている。
いけない、と心のどこかで自分が叫んでいるのを無視して。