その音が消える前に、君へ。
普通を演じているわけでもなく、これを普通として動いている自分に少し驚いた。
少し前までは、普通の人と同じようにすることを意識していたというのに。
そんな事を考えながら歩いていると、ぽつりと冷たい雫が頬に当たる。
「やっばー降ってくるーー!」
「急げ〜〜!!」
一斉に走り出す中、遅れを取った私は転びかけるが誰かに支えられる。
顔を上げると目の前に榊くんの顔があった。
びっくりして身を引こうとしたけれど、その前に榊くんが私の手を取ってゆっくりと走り出す。
陽菜乃達を追いかけながら途中で、シャッターの閉まった店の軒先で雨宿りをするように立ち止まった。
「さ、榊くん?」
「はは、ごめん。こうしなきゃ二人きりになれないかなって」
その言葉にドクンと心臓が跳ねる。
どうしてと問いたいけど、声が言葉が出てこない。
陽菜乃達の走る姿を愛おしそうに見つめるその表情に、何か見ちゃいけないものを見たような気がした。