その音が消える前に、君へ。
そっか、きっとあの中に榊くんが前に話していた人がいるんだ。
それで私はその人に近い存在だから、それで、それでなのか。
腑に落ちていくけれど、妙に悲しい。
「声掛けてくれてありがとう。どこかで話したいな、とは思ってたんだ」
「お礼言われる程の事してないよ」
「いや、俺をしっかりと見て、俺に向き合ってる」
榊くんの言葉の意味がよく分からなくて、首を傾げることしかできない。
「糸は絡み合うものだけど、それが管原さん……紗雪には、ない。それをたぐり寄せたかったんだ」
「さっ榊くん、何言ってるの?」
「あの約束はいつしてくれるの?」
疑問に疑問で返されて、息を飲んだ。
まさかこのタイミングで聞かれるなんて思ってなくて、動揺を隠しきれない。
自分の五月蝿い心臓の音が、安心感のある榊くんの音をかき消していってしまう。
「ま、まだ見つけてない、から」
「そっか。できたら今日聞きたかったんだけど」
苦笑しながら私を見つめる榊くんはどこか寂しそうで、思わず手を伸ばした。