わたしの読者
本当はいつも、そう思っている。


でも所詮、わたしは、思っている、妄想しているだけのモブキャラ。


思ってるだけで何もしない弱いわたしを、周りに合わせて勝ち組気取ってるわたしで隠している。


どこをどう見てもモブキャラで、主人公になんてなれっこない。


「だけど俺は、きみの主人公ぶりから、目が離せない」


なのにそんなわたしを、主人公にしたい、なんて、変だと思うけど。


「物語を、もっと主人公の傍で読みたいんだ」



この人の中ではもう、わたしは主人公として、物語を動かしてしまっているらしい。


「何度でも言うよ」


物語の舞台は、誰もいない広い図書室。


物語の鍵を握っているのは――


「俺の、主人公になってください」


変な読者さん。


語り部のような無機質さを感じていたが、今はもう違って見えた。


本を読んで主人公の一挙一動を追う眼差しは、雄弁にハラハラドキドキを物語っている。


わたしの目の前には、物語の続きを待望する読者の姿があった。


その時図書室に、再び静寂が訪れた。


読者の静かな息遣い、手に取った物語の、ページを向くる手は、今は止められている。


余計な音を拒んだ場所。薄暗く落とされた照明。少し肌に冷たい空調。


そして、古臭い紙の匂い。


ここでは人の気配より、本の存在感のほうが、圧倒的に優っている。


それらは固定の主を持たず、ここを訪れた生徒たちに次々と手に取られては、またここに戻ってくる。


この読者が選んだ物語は、この先主人公がどう活躍するのだろう。


それは他人事な感想だった。


でも、


「……主人公は読者の意表を突くものだと、わたしは思う、から」


ごめんなさい。


わたしの返事を聞いた途端、彼はぴくりと眉を動かした。そして、キュッと唇を噛み締める。


わたしの言葉は終わっていない。


「まあ、まずは友達から始めてみない? わたしあんたのこと全っ然、知らないんだよね。だから。つまりさ、わたしの本当の友達第一号になってください」


そう言ったら、目の前の読者は、さっそく驚いた顔をした。それから、やっぱり好きだ。って言って、満足そうに笑った。


ひとつの物語に主人公が2人いてもいいだろう、とわたしは思う。





 おわり

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