Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 トラビス=リード 。リード伯爵家の長男。
 
 トラビスがグレイの補佐官につくとともに、父親は政界から引退。
 それまで、彼はまったく無名だったが、今ではアルメリオンの国政に
 なくてはならない人物。

 今、会ったトラビスと、トラビスに関する情報とを思い浮かべながら、
 南棟を出ようとしたミュアは呼びとめられてふりかえった。



 上背のあるひきしまった身体に、やはり今日もはでな刺繍の
 サーコートをはおり、銀の台座にうめこまれたアメジストの
 タイピンが煌(ひか)る。

 クセのあるブラウンの髪を一つに束ね、髪と同じ明るいブラウンの
 瞳を輝かせた アクレス=フォッテン侯爵は大股でやってくると、
 さっと跪き、ミュアの手をとった。

 指先に口づけ、上目づかいにミュアに尋ねる。


   
    「ご一緒してもよろしいですか」


 どう答えていいかわからず、すぐに返事をしないミュアの手を、
 握ったまま立ちあがると、彼は
 ” ほんの、すぐそこまでだけですよ ” と言って、ミュアの手をひいた。

 さすがに王妃の手をひいて王城の中を歩くわけにはいかないから、
 彼はすぐに手を離したけれど、うながされるかたちになって、ミュアは
 足をふみだす。

 当然のようにアクレスはとなりに並んだ。


   
    「美しい王妃様のとなりを独占できて、こんな嬉しいことは
     ありません」
    「口がお上手ですのね」



 ずいぶんとスマートに女性をリードできる人だ。

 でも、派手な衣装も彼の容姿をひきたてているし、見えすいたお世辞も
 不快には感じさせない明るさがある。

 それに昨日、議長はグレイの言葉よりもこのフォッテン侯爵の言葉を
 優先させた。
 
 若いが力のある貴族らしい。



 
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