Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 紫と白のサルビアを基調に、赤や黄色のくっきりとした花色がまじる
 夏の庭に、愉しげな笑い声があがる。

 ソフィーニアはよくしゃべり、よく笑い、まるでこの場の主人は自分だ
 というように振る舞った。


   
    「素敵でしょう、この庭はここからの眺めが一番いいの。それに
     風が通って、夏のお茶会にはぴったりだわ」



 たしかに彼女の言うとおりだった。

 アルメリオンは大陸の南に位置するため、ターラントよりは気温が高めだ。
 ターラントとは違う、南の海からの湿り気をふくむ夏の暑さになれない
 ミュアには、ここはとても過ごしやすい。


   
    「王城の中のことを、よくご存知なのね」
    「子どもの頃、僕は城に住んでいたんですよ。
     三王子の遊び相手としてね。
     だから、妹は僕に会いたいとワガママを言って、しょっ中、
     城に来ていたんです」



 ミュアの問いにアクレスが答える。


    「ワガママなんてひどいわ、私はグレイ王子のお相手を
     するために来ていたのよ」
    「そうですか、子どものころの陛下はどんな風でしたか?」



 ミュアがアクレスの言葉にむくれるソフィーニアに尋ねると、彼女はじっと
 ミュアを見て、それから見とれるほど艶やかに笑んだ。


   
    「グレイ王子はとてもやさしかったわ。
     私の騎士(ナイト)だとおっしゃって。
     いつも私を助けてくれた。
     彼と私の親密さは、今も続いていますの」
    「ソフィーニア」



 さすがにアクレスがたしめるように低めた声で妹の名をよんだが、彼女は
 顔色ひとつ変えず、ミュアにむかって軽蔑をまぜた歪な笑みをむけた。


   
    「グレイが可哀そう……、彼がなにより大切にしていたオーガを傷つけ
     自分の非は認めず、そのうえ相手を平手打ちにするような女と結婚
     しなくちゃいけないなんて」
    「ソフィーニア、口をつつしめ!」



 今度は大声をあげたアクレスが勢いよく立ち上がり、冷やした紅茶のカップが
 がちゃんとたおれる。

 こぼれた紅茶が、白いクロスに茶色く汚れた染みをつくっていくのを、
 ミュアはただ黙って、じっと見つめていた。





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