Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 
 馬の脚が小石にのって横滑りをし、トラビスはひやっとなった。
 もう、今日、何度目になったかわからないほどの ” ひやっ “ だ。

 だからといって速度を落とすわけにもいかず、なんとか必死についていく。

 くだけた小石の多い、曲がりくねった細道が続くこの丘を、
 馬で駆けあがるのは至難の技なのに、前をいくグレイは少しも
 速度をゆるめない。

 彼が紅い髪を風に逆立て、わきめもふらず馬を駆るときは、
 心の中にひどい鬱屈を溜めこんでいるときだと知っているから、
 危険だとわかっていてもトラビスは途中で馬をとめれない。



 細い道のさきに明るい空が見え、あぁやっと頂上だ、と
 トラビスは安堵の息を吐いた。

 トラビスが遅れてたどりつけば、グレイは彼方にそびえる王城と
 その下にひろがる街並みを冷ややかな目でながめていた。


   
    「すっ……こしっは、気が……晴れたか?」



 息を切らしはげしく肩を上下させながら、トラビスがやっとそう言うと、
 グレイは短く、


    
    「そうだな」


 と答えた。
 

 
 これだけの荒れ道をいっきに駆けあがったくせに、息ひとつ
 切らさないなんてまったくたいした奴だよ、お前は……。

 グレイなら駆けあがりながら、矢を射ることだってできるだろう。

 心の中で、賞賛とも悪態ともつかぬものを吐きながら、トラビスも
 グレイのとなりに馬をならべ、グレイがながめているものを見る。

 彼は今度は向きをかえ、王城とは反対のターラントとの国境をなす山々を
 見上げていた。


 そのなかには、ボドナ鉱山もある。





< 61 / 192 >

この作品をシェア

pagetop