Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
馬の脚が小石にのって横滑りをし、トラビスはひやっとなった。
もう、今日、何度目になったかわからないほどの ” ひやっ “ だ。
だからといって速度を落とすわけにもいかず、なんとか必死についていく。
くだけた小石の多い、曲がりくねった細道が続くこの丘を、
馬で駆けあがるのは至難の技なのに、前をいくグレイは少しも
速度をゆるめない。
彼が紅い髪を風に逆立て、わきめもふらず馬を駆るときは、
心の中にひどい鬱屈を溜めこんでいるときだと知っているから、
危険だとわかっていてもトラビスは途中で馬をとめれない。
細い道のさきに明るい空が見え、あぁやっと頂上だ、と
トラビスは安堵の息を吐いた。
トラビスが遅れてたどりつけば、グレイは彼方にそびえる王城と
その下にひろがる街並みを冷ややかな目でながめていた。
「すっ……こしっは、気が……晴れたか?」
息を切らしはげしく肩を上下させながら、トラビスがやっとそう言うと、
グレイは短く、
「そうだな」
と答えた。
これだけの荒れ道をいっきに駆けあがったくせに、息ひとつ
切らさないなんてまったくたいした奴だよ、お前は……。
グレイなら駆けあがりながら、矢を射ることだってできるだろう。
心の中で、賞賛とも悪態ともつかぬものを吐きながら、トラビスも
グレイのとなりに馬をならべ、グレイがながめているものを見る。
彼は今度は向きをかえ、王城とは反対のターラントとの国境をなす山々を
見上げていた。
そのなかには、ボドナ鉱山もある。