Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 ふぅとかすれたような息がこぼれ、しょぼんと肩が落ちたところで、
 突然目の前が真っ暗になった。

 誰かがミュアの目を塞いだのだ。

 一瞬、襲われたのかと身を硬くしたが、押えているのは女性の手だとミュアは
 すぐに気がついた。

 子どもが大好きな人を驚かせようとするみたいに……。
 案の定、わざとらしく低くしたつくり声が、うしろからした。


   
    「わたしが誰だかわかるかね、お嬢さん」



 その声を聞いて、ミュアの顔がぱっと喜びで輝く。


    
    「もちろんわかるわ、 あ・な・た・は、黒髪の魔女よ」
    「大当たり!」



 目の前が明るくなり、ふりかえれば笑顔のクノエが立っていた。


   
    「クノエ! どうしたの?」
    「王妃様が、元気をなくしておられるようだから、王城にもどり
     おそばにいるようにって、あの天使づらしたエセ紳士が言ったん
     ですよ」
    「え?」
    「リード家のお坊っちゃま、トラビス=リードですよ」
    「あ、トラビス政務補佐官ね」
    「それで王城にもどってきたんです」
    「じゃあ、また一緒にいられるの!」
    「ミュアリス様が、”いらない” とおっしゃられないかぎりは」
    「言うわけないでしょ……クノエ、会いたかったの」



 涙がぽろぽろと頬をこぼれ落ちた。
 クノエの腕が背中にまわされて、ベンチの背もたれ越しに二人はしっかりと
 抱きあう。




 数分後、クノエはミュアの両手を握りしめながら、きっぱりとした口調で
 言った。


   
    「まかせてください、まずは目の前の問題から、片付けましょう」






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