Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
中には黄褐色の毛並みのオーガがいた。
オーガは檻のすみの暗がりにじっと身を潜めていたが、兵士が槍の柄で
檻の壁を叩くとぱっと前に飛びでて、格子を前足で一撃した。
がつんという音がし、近づいていた人たちがわっとうしろに飛びさがる。
きゃあと、女性の声があちこちであがる。
ただひとり、グレイだけが動かなかった。
一言も発せず、身じろぎもせず、檻の中を見つめている。
鋭い視線はそのままに慇懃に腰をおった隊長が、グレイに近寄り声をかけた。
「陛下は幼少よりオーガという獣に並々ならぬ関心があった、
オーガを育ててさえいた、と聞いたものですから。
どうです? お気に召していただけましたか」
「矢で射たのか」
「そうです」
「傷をそのままに、つれてきたのか」
「はい」
第二連隊長の誇らしげな返事にグレイはふっと短く息を吐くと、
くっと口角をあげた。
「わかった、有難くいただこう、だが、すぐに檻は下げろ。
ご婦人方が恐がっている」
檻の中のオーガを見据えたままそう言い、横柄に命じる。
隊長は憮然とした顔をしたが、さっと手を振り兵士に合図し、
ゴロゴロと音をたてて台車が動きだす。
檻を見送ったグレイはくるりと振りかえると
「良いものをいただいた、楽しませてもらおうと思う」
と居並ぶ貴族たちにむかって怒鳴るように言い、
近くにあったテーブルの上のグラスを引っ掴むと” 乾杯 ” と高く掲げ、
いっきにそれを飲みほした。
貴族たちはどよめき、戸惑ったような表情をうかべ、
婦人たちは口許を扇で隠しながらひそひそと言葉をかわしはじめる。