Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
今ミュアは東にむかう回廊を息をきらせながら走っている。
手にしているのは ホロニカの枝だ。
手負いのオーガが野放しになってしまった城から安全なところへ逃げようと、
必死な貴族たちの集団から、ミュアは侍従の目を盗んでこっそりと
城内へともどり、すぐに中庭へと走った。
たしかあそこにはホロニカの茂みがあったはず ー ー。
ホロニカは人にはわからないが、オーガが好む独特の香りをもっていて、
人に慣れない、神経のたかぶったオーガを鎮めるときに使うといい、
と聞いたことがあったからだ。
枝を取り、戻る途中で、オーガは東棟の建物沿いのテラスに
追いつめられたと聞き、とめようとした侍女をふりきって、
ミュアは東棟へと急いでいる。
息がきれ、走りすぎて胸が痛い。
足がもつれて、転びそうになるけれどミュアは一度も足をとめなかった。
東棟の奥まった小庭に足を踏みいれ、ミュアは目の前の光景にはっと
息をのんだ。
爛々(らんらん)と目を光らせ唸っているオーガと、松明を持ち
テラスのかこむように立つ兵士の前で、身を低くしているグレイ。
グレイの背中にまわした右手には注射器がにぎられている。
麻酔でオーガをしずめるつもりなのだ。
小さな庭は、怯えと張りつめた緊張感につつまれていた。
城仕えのものや官吏が不安と好奇心をないまぜにした顔で、
遠巻きになりゆきを見まもっている。