Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
ミュアに気づいた人たちの中から、ひとりの官吏が
「王妃様、ここは危険です、建物の中へお入りください」
と言いながら近づいてきた。
その方がいいとわかっている。
でも、なんとかこの枝をグレイに渡せないだろうか。
効果のほどはわからない、でも役にたつなら ー ー。
前のめりの姿勢でしゃがんだグレイは何事かオーガに語りかけている。
そのうちじっとしていたオーガが立ちあがりうろうろと歩きはじめた。
歩きながら鼻を高く上げしきりに匂いを嗅ぐしぐさをする。
ホロニカの匂いがわかるのかしら?
たいした嗅覚だし、だとしたらこの枝が役立つかもしれない。
「わたしは大丈夫です。それよりこの枝を陛下にお渡ししたいの。
オーガを落ち着かせる力があるのです」
若い官吏は半信半疑といった顔で枝をみたが、わかりました、と
枝をうけとりオーガには見えない角度からテラスに近づいていく。
枝が松明をもつ兵士のひとりにわたり、兵士はグレイににじり寄ると
小声でささやき枝を手渡した。
グレイは枝の意味がすぐにわかったのだろう。
より香りをたたせるために細く折り、手のひらでこすりあわせている。
すると引き寄せられるようにオーガがグレイのほうへゆっくりと歩みより
はじめ、慎重にグレイもオーガにむかってさらに近づいた。
周りのざわめきが少し大きくなる。
緊迫した空気にミュアは、ぎゅっとドレスを握った。
口が乾き、張りつめた気持ちに胸がくるしい。
グレイとオーガは今は触れるほどの距離に近づき、
グレイの持った枝を嗅ぐオーガの尻尾が、ゆっくりと下がりはじめた、
そのとき ー ー。