Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 庭の木の陰から、空気をさいて矢がオーガめがけて飛んだ。

 だが、気づいたオーガはぱっと身を翻し、
 長くて太い尾がパシンとグレイを打つ。

 侍女たちが悲鳴をあげた。

 
 よろけたグレイは頬に手をあてたが、手を下ろし一度深く息を吸うと、
 またすぐに姿勢をもどしオーガにむかいあった。

 そんなグレイの頬にひっかかれたような赤い血の筋ができている。
 尻尾だけでなく、後ろ足もあたったのかもしれない。

 どよめきがあたりをつつみ、ミュアは声をあげていた。


   
    「武器を持つものはすべて手から離しなさい! 
     そしてけっして声をださぬよう、音もたてぬように。
     今は、ただ、陛下を信じて!!」



 木や茂みのうしろから、小さくがちゃんと武器を置く音がきこえ、
 まわりはしんと静まりかえった。

 
 皆が息をつめてグレイを見ている。
 ごくりと唾をのむ音さえ聞こえてきそうだ。


 オーガはもう自ら近づいてはこなかったが、それでもヒクヒクとさかんに
 匂いをかぐそぶりをし、グレイが近づいても襲いかかることはなかった。


   
    「よし、よし、良い子だ」



 もう一度触れる距離に近づいたグレイはやさしく声をかけながら、
 オーガの首下に手をいれ、丁寧に愛撫する。


 十分に撫で、囁き、オーガが目を閉じるのを待って、
 グレイは注射の針をゆっくりと耳下に打ちこんだ。




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