Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
    

    「今、陛下は医務室にいらっしゃいます」



 そう侍従長に言われ、ミュアは医務室を訪れた。



 麻酔で眠ったオーガは厳重にも施錠された檻にいれられ見張りが
 三人ついているらしい。


 もうすっかり夕暮れになり、窓から差し込む陽かりがオレンジ色だ。

 医務室のドアの前で、ミュアは、グレイの様子を案じる不安感と、
 愛しい人に会うときのような高揚感でドキドキする胸の鼓動を感じながら、
 そっとドアをあけた。


   
    「脈なんかみる必要ないだろう」



 部屋に入ると、衝立のむこうから元気そうなグレイの声が聞こえてきて
 ほっとする。

 ほっとしたと同時に、グレイの声に熱い潮流が胸の中でうねるのを感じて、
 ミュアはためらった。  
  
  この感情は……

 わかるようでいて、わかりたくない。
 だからそれは、今日の出来事の興奮が醒めていないからだと、
 ミュアは思おうとした。


   
    「なんともないって言っているだろ、いい加減にしろ」



 お医者さん嫌いの子供が、駄々をこねるときみたいなグレイの声が
 聞こえてきてミュアはくすっと笑うと、衝立のうしろからでる。

 若い医務官がグレイの前で弱りきった顔をしていた。


   
    「陛下、彼は陛下のことを心配しているのですわ」



 グレイがミュアに気づいたので、怒られている医務官をかばうように
 言うと、グレイは大きなため息をつき、そっぽをむいた。

 そのせいではっきりとわかる頬の傷が、思っていたよりも大きくて
 ミュアは胸がつまった。

 彼は、最後までオーガを助けようとした、危険をおかしてまで。

 矢で射殺してしまえば簡単だったのに……。


 手をのばし、頬に触れたかった。
 傷が深くないと確かめたかった。








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