Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
厩舎には馬丁がひとりいて、あらわれた王と王妃を見て
ひどく驚いた顔をした。
鞍をつけさせた自分の馬にミュアを座らせそのうしろに跨ると、
グレイは、クロエという侍女と補佐官のトラビスにだけ伝え、
他のだれにも王と王妃が出かけたことは話すな、
と厳しい顔で馬丁に命じた。
そして表情をゆるめると、王妃が寒いだろうから
おまえがはおっているマントを譲ってほしいと、馬丁に頭をさげる。
馬丁は恐縮しながらも、
「そこの壁にいくつもぶら下がっておるから、構わないですだ。
なんなら王様の分も持ってこようかね?」
とにっこりとした。
「いや、いい」
とグレイも笑って答え、渡されたマントでミュアをくるむと、
彼はつよく馬の腹を蹴った。
何日もまともな食事をしていなかったせいか、馬の背で揺られ
ミュアは頭がくらくらし、うしろからグレイがしっかりとささえて
いてくれなかったら、走りだしてすぐ落っこちていただろうと思った。
馬は王城の坂を下りおり、朝の早い商人が起きだしたばかりの
王都を駆けぬける。
どこにむかっているのかミュアにはさっぱりわからない。
目線をあげれば、山の峰が細い光の線になって輝き、雲が薄紅色に
そまっていく。
走っているうちに朝日が昇りはじめ、みるみるうちにあたりを
明るくてらしていく。
生まれたての陽光が、忘れていた “ 生きる ” という感覚を
ミュアの中によみがえらせ、馬丁の薄汚れたマントの暖かさとグレイの
息の熱さを感じ、いつの間にか涙が、静かにミュアの頬を流れおちていた。