大切なものを選ぶこと
声と共に入ってきたのは、目を疑うくらい綺麗な女性が二人。
それに、
「美紅!!」
血相を変えた弘翔だった。
「あのー…これって…どういう…」
状況に頭が追い付かない…。
女性の一人は弘翔より少し年上くらいの人で、もう一人は組長さんと同じくらいの年齢の人。
「どうも~!初めまして美紅ちゃん、弘の姉の千賀桜(せんがさくら)っていいます!」
そう言ってはじけるくらいの笑顔を向けるお姉さん。
よく見るとやっぱり美人…というより可愛い…
茶髪のショートボブで、肌もすべすべ、クリっと目は大きいし…半端じゃないくらい可愛い。
「ちょっと昌!頑張ってくれないから桜との賭けに負けちゃったじゃない!」
「いや…俺、かなり頑張ったと思うぞ…」
「甘いねお母さん。あの弘が家族に紹介しようとするくらいべた惚れの彼女だよ!?簡単に別れるわけないでしょ!」
「そうよね~昌の演技もなかなかだったわよね~」
「てことでお母さん、今度、私と子供たちの分のランチ奢ってね」
これは…どういう状況なの…!?
そう思っていると弘翔のお父さんがさっきとは一変した物凄い低姿勢で頭を下げてきた。
「本当にすまない!美紅ちゃん!!」
「えっ…??」
「俺は本当はあんなキャラじゃないんだよ!椿と桜に言われて無理やり…」
ちょっと待った。
さっきまでの怖すぎるオーラはどこにいったの…!?
至極申し訳なさそうに頭を下げる姿は…どこからどう見ても極道の組長って感じではなく、完全に気の弱そうなおじさんだ…。
「おい、お袋」
今まで静観していた弘翔が低い声を発した。
「頼むから悪ノリしないでくれって言ったよな。親父も、桜も」
その言葉に組長さんは本当に申し訳なさそうに片手を挙げて『すまん』と謝った。
「昌も弘も、秋庭の男共は女に甘いからね。悪いけど少し試させてもらっただけよ。秋庭の女として、昌の妻として、極道の姐として、私は義務を果たしただけよ。何か文句はあるかしら、若頭さん?」
凛とした言葉に弘翔は押し黙った。