大切なものを選ぶこと
──「一生やってろ万年新婚夫婦」
「聖弥さん、ご馳走様です」
「いいもん見たわー」
弘翔と葵ちゃんと高巳の声が重なる。
うん…確かに激甘…。
夫婦喧嘩は犬も食わないってやつだね。
というか、二人の子供って駿(しゅん)君っていうんだ。
6歳で小学校1年生っていうのは楓さんから聞いてたけど、名前はそういえば知らなかった。
全然イメージがわかないけど、どうやら聖弥さんも子煩悩らしい。
「邪魔したな弘、美紅さん」
「本当ですよ。毎回俺の家に来るなって言っておいてください」
「それは無理だな。言っても聞かん」
「聖弥さんは楓に甘すぎなんですよ」
「仕方ないだろう」
惚れた弱みってやつだ。
少しだけ言葉を交わして、聖弥さんは楓さんを連れて玄関へと向かった。
──「蓮さん、帰国していたんですか」
「えぇ、つい先日。秋庭の方の仕事が立て込んでおりまして。すみませんね聖弥君」
「次の会合の事で共有しておきたいことがあるので、後日また連絡します。今度は楓の旦那としてではなく、春名の組長として」
「承知いたしました」
そこで言葉を切った蓮さんは持ってきていた紙袋を聖弥さんに差し出した。
「今回はドイツに行ってきましてね、聖弥君も楓さんもお好きでしょう白ワイン」
「おい兄貴…無性にビールが飲みたくなったからドイツにしたとか言ってなかったか?」
「言ったでしょうか?」
蓮さんの言葉に弘翔は眉間に皺を寄せた。
紙袋を受け取った聖弥さんは中身を確認してから少し驚いた顔をして、『トロッケンベーレンアウスレーゼに、ヴィリ・シェーファーのグラーハーヒンメルライヒアウスレーゼ…』と謎の呪文を呟いた。
「二つとも俺と楓の一番好きなワインだが…こんな高価なもの貰っていいんですか?」
「受け取っていただけないなら何のためにドイツまで行ったのか分からなくなってしまいます。私からの結婚記念日のお祝いということで」
「ありがとうございます。有難くいただきます」
深々と頭を下げた聖弥さんと楓さん。
そのまま二人は手を繋いで帰って行った。
蓮さんって…最初から全部わかっていたんだろうか。
私がそんなことを考えている横で弘翔がボソッと『あのワイン、二つで100万近くするぞ…』と呟いているのが聞こえてしまった。