大切なものを選ぶこと



──「ビールと…美紅は?」




「お茶~」




境内の飲み物が売っている屋台で飲み物を注文する。



すごい人だかりで、ついでに弘翔が女の子の視線を集めているせいで常に人に囲まれている状態だ。




「弘さん!」




「おー純。今年もか」




「へい」





……!?
え、純さん!?
何やってるんですか…?



似合わない。似合わなすぎる。



スキンヘッドにサングラスの強面な人が…ベビーカステラ作ってるなんて。




「美紅さん、コレ持ってってくだせえ」




「あ、ありがとうございます!」




なんで純さんがベビーカステラ…?



純さんって組の中でも高い地位の人で、本来ならこんなところで屋台を出しているような人じゃないはずだ。



不思議に思って弘翔を見上げると、ものすごく照れたような顔を向けられた。




「弘さんがまだ年端もいかないくらい小さかった時、俺のベビーカステラが一番うまいと言ってくれたんで」




「もしかして…それから毎年!?」




「へい!」




いやいや、律儀すぎるでしょう。
流石は純さんだけど!



純さんの迫力と貫禄のせいでほとんどお客さん来てないし…。




「俺がガキの頃は純もまだ20代だったからな。今じゃ若い連中に示しがつかないから幹部筆頭がこんな事しなくていいと言ってるんだが…」




「弘さん!俺の楽しみを奪わないでくだせえって毎年言ってるじゃないですかい」




「弘翔は甘いもの好きだからね。甘いもの食べてるとき幸せそうだし」




「そうですよね。さすがは美紅さん、よくわかってらっしゃる。弘さんの喜ぶ顔が見たくてベビーカステラを極めやした」




純さんのベビーカステラを幸せそうに食べる幼い弘翔。なにそれ萌える。



純さんがこの年になっても弘翔の為にベビーカステラを作り続けているのも納得だ。



終始照れているらしい弘翔はガシガシと頭を掻いているけど、照れていること自体が可愛いことを自覚した方が良いと思う。



『食べる?』と純さんからもらった袋から一つ取り出して渡せば、素直に受け取って食べてるし。



ちなみに…純さんがくれた袋(大)には50個以上のベビーカステラが入っている。





「やっぱ純のが一番だな」



至極幸せそうに笑う弘翔を見て純さんも破顔している。



この顔が見たくて毎年屋台を出しているのか。納得。




「え、美味しい!!」



私も一つ食べたけど、お世辞抜きで美味しい。



今までに何度かベビーカステラを食べたことがあるけど、群を抜いてこれが一番だ。



卵の味が濃くて、生地もふわふわ。程よい甘さが口の中に広がる。




「伊達に20年以上ベビーカステラ作ってやせんから」




私が美味しいと言ったことで追加でもう一袋くれた純さん。



そのあと少しだけ純さんとお話しして別れた。




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