大切なものを選ぶこと
泣いている葵ちゃんを慰めに行くわけにもいかず、どうしようかと迷っていると弘翔から着信。確認すれば何度も着信がきていた…。
これだけ時間が経っていれば心配されるに決まっている。ただでさえ弘翔は心配性なんだから。
ここで電話に出るわけにもいかないので、大きく迂回して戻ることにした。
「美紅!!」
手洗い場まで迂回して戻れば、弘翔が迎えに来てくれていた。
『何かあったのか?』と心配そうに聞かれるけど言う訳にはいかない。
盗み聞きなんて自分でも最低なことしたってわかってる。
「ううん、大丈夫。逆方向行っちゃって迷子になってた」
私の言葉に『だから一緒に行くと言ったんだ』と苦笑いする弘翔。
不可抗力ではあるが見てしまったあの光景については誰にも言うわけにはいかない。
だけど…あの場に一人残った葵ちゃんへの心配が頭を埋め尽くして仕方がない。
高巳と蓮さんの間に何があったのかなんてわからないし、私が聞くべきじゃないことくらい理解している。ましてや弘翔でさえ知らない事なんだから。
でも、それでも、高巳の真っ直ぐに葵ちゃんを見る視線に恋情が含まれていることにも気づいてしまった。
一寸も迷うことなく、葵ちゃんの告白を断った高巳が何を考えていたのかを知るすべはないけれど、今は第三者が口を出すべきではない。
高巳は葵ちゃんに幸せになってほしいと言ったけれど、私は二人に幸せになってほしい。
──「お、美紅ちゃん、大丈夫だった?」
弘翔と連れ立って本部に戻ると相変わらず緩い口調の夏樹さんに声を掛けられる。
またしてもパイプ椅子を並べて寝転がっている…。
「あまりにも戻ってくるのが遅いから弘が心配して大変だったんだよ」
「ご迷惑おかけしました…」
ひらひらと手を振って怠そうに『無事でよかったわ~』と笑う夏樹さんに釣られて私の口角も上がる。
あれ…と思って本部を見渡しても千賀家がいなくなっていた。
「桜たちなら出店まわるって言ってさっき行ったぞ」
なるほど。
祭りといったら食べ物だけじゃなくて楽しみはたくさんあるもんね。
「俺たちもそろそろ花火見える場所に移動するか」
「うん!」
思っていたよりも時間が経っていたらしく、もう日が暮れかけている。早く行かなければ場所がなくなる。
本部からはテントに遮られて花火は見えないので近くの河川敷に移動するのが恒例らしい。
秋庭組が出資して上がる花火はちょっとしたガイドブックなんかには載ってしまうくらい大規模なものらしい。楽しみだ。
──「お疲れー」
「「「「高巳さん!お疲れ様です!」」」」
移動しようと荷物をとったその時、組員さんたちの野太い声が重なった。
テントに入って来たのはいつも通りの飄々とした高巳。
さっき盗み聞きをしてしまっているだけに居たたまれない。