大切なものを選ぶこと



「遅かったな高巳」




「あー…まぁ、野暮用があってね」




弘翔の言葉に一瞬だけ困ったような表情を浮かべた高巳。



私に『お、美紅ちゃん楽しんでってね』と軽く手を振ると、そのまま組員さんたちに取り囲まれてしまった。



責任者として対応しなければならないことがたくさんあったみたい。




「じゃあ高巳、俺たちはこれで失礼するぞ」




「仕事中の俺に対して見せつけるように堂々とデート宣言するなよ」




「いいぞ~高巳。もっと言え!」




「夏さんは寝てないで仕事してください…」




「へいへい」





軽口を叩き合っている三人を見て自然と笑みが零れる。



秋庭の人たちのこういうノリすごい好きだ。




『行くか』と弘翔に手を引かれそうになったのと同じタイミングで、




「あ、そうだ。美紅ちゃん」



高巳に呼び止められる。



なんだろうと思って視線を向ければ小さく手招きされる。どうやら弘翔には聞かれたくない類の話らしい。





「さっき見たことは他言無用でお願い」





「え…!?」





耳打ちされた言葉に、咄嗟に大きな声が出てしまった。



訝し気な弘翔の視線を苦笑いで誤魔化す。




盗み聞きしてたのバレてた…!?



恐る恐る高巳の方を向くと、いつもと同じ軽い表情だった。





「職業柄ね、人の気配には敏感なんだよ」




「…………ごめん…」




完全に気付かれていたらしい。



申し訳なさすぎて俯きかげんになった頭上に『そうじゃないそうじゃない、別に責めてるわけでも怒ってるわけでもないよ』という高巳の焦った声が落ちる。




え?と思って顔を上げると、困ったような、逡巡するような、少しだけ照れたような…初めて見る表情。




「あんな情けない所を見られて恥ずかしかっただけだから」




何と答えていいのか分からなくて押し黙ってしまった。



少なくとも、葵ちゃんの想いに真摯に答えた高巳は男性として魅力的だったと思う。その答えがどうであれ。




『弘翔とのデート、楽しんでおいで』と、いつもと変わらないテンションと口調で言って笑いかけてくれる高巳はやっぱり年上の大人の男性だ。



いつもの軽いノリやふざけた態度からは全く想像できないけど、この人は私より10歳も上の大人なんだ。私が気にしないよう自然に気を遣われた。




大人の魅力というか…余裕か。夏樹さんもそうだけど。
この二人には大人の余裕がある。



葵ちゃんが高巳に惚れた理由が何となくわかった気がした。




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