王太子の揺るぎなき独占愛



「本当です。森に入るたび、今日は殿下に会えるかもしれないと期待して、お会いできなかった日はがっかりしながら家に帰ったんです」
「へえ。森で俺を探していたのか?」

 顔を赤くし必死で話すサヤに、レオンは低い声で問いかける。

「はい、いつも探しておりました。クスノキの近くに行くといつもドキドキしてました。それに、もしも他国に嫁ぐことになれば、森で殿下をお見かけすることもできなくなると思って……。だから、結婚のお話が出ていると聞いてビクビクして……ずっと森で生きていきたいと考えていたんです」
 
 サヤの言葉に、レオンはピクリと目を細めた。

「他国に嫁ぐ、だと?」
「え……あ、はい。陛下が私の嫁ぎ先をお決めになると聞いて……」
「俺がそれを許すわけがないだろう?」

 部屋を震わせるほどの低い声が響いた。
 レオンは顔を歪め、サヤの顔を覗き込んだ。

「他国になど嫁がせるわけがないだろう。お前は俺の妃になるんだ。他の誰にも渡さない。何度も背中を見せて走り去る姿を見せられて、どれほど苦しかったか」
「殿下……?」
「俺はサヤの背中を見たくて森に行っていたわけじゃない。俺だって、今日はサヤに会えるだろうか、今日は逃げずにいてくれるだろうかと思っていたんだ」

 レオンの唇が、サヤの目元に落ちた。

「王家の森を管理しているルブラン家の女性はサヤ以外にもたくさんいるが、俺はサヤの姿をいつも探していた」
「……それって」

 戸惑うサヤの頬を、レオンのてのひらが、そっと包み込んだ。

「背中じゃない、俺はこの顔をずっと見たかったんだ。走り去るお前を何度追いかけようとしたことか」
「嘘……」

 レオンの唇が、サヤの頬をくすぐり、そのまま顎へとおりていく。
 その間も、レオンの視線はサヤの目から離れず、サヤはレオンの体にすがりついたまま、与えられる刺激に何度も反応する。

「だが、ほしい物をほしいと言わずに大人になった俺には、ほしがるよりあきらめる方が慣れているんだ。たまに森で見かけるだけで満足しようと考えていたんだが」

 レオンはそこで言葉を区切り、ゆっくりと顔をあげた。
 頬に感じていた熱が去り、サヤは寂しさを覚えた。視線でレオンを追えば、重なるようにレオンの視線が向けられた。



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