王太子の揺るぎなき独占愛
「俺が王位に就くと思われている十年後までなにもしなければ、いや、今動かなければサヤは陛下の命に従って俺以外のオトコと結婚すると考えた途端、もう背中ばかりを見るのは終わりにすると決めた」
「殿下、あの」
言い聞かせるような力強い声に、サヤの体は震えた。
その震えを知ってか知らずか、レオンは意味ありげに笑った。
今では婚約者となったサヤだが、長い間、遠目に彼女の背中を見ながら寂しさを感じていたころを思い出せば、今もやはり切ない。
サヤを王妃として迎え入れたくとも、ラルフの退位を待っていれば、年齢的に彼女は王妃候補から外されてしまう。
そうなれば、レオンの結婚相手には別の女性が選ばれる。
サヤを愛しく思いながら別の女性を娶るなどできない。
そして、サヤが自分以外の男性と結婚するなどどうしても許せない。
レオンは再びサヤの頬を両手ではさみ、顔を寄せた。
「背中ではなくこの顔を毎日愛でるために、結婚すると決めた。他国になど嫁がせるわけがない」
言葉の甘さとは逆の鋭い視線を向けられ、サヤは息を詰めた。
「いっそ森の離宮に閉じ込めてしまおうかと考えたときもあったが。それは、まあ冗談としても」
レオンは小さく笑い、黙り込むサヤに軽くキスをした。
「ほしい物をちゃんとほしがらなければ、俺はいずれ壊れるとジュリアに言われたこともあったが、その意味が今ならわかる。自分の立場を理由にサヤをあきらめれば、いずれ後悔し、俺は壊れてしまう。王としての責任だけを果たす人形のようになるはずだ」
甘い言葉を口にするレオンに、サヤの頬は次第に赤くなる。頬どころか色白の体全体が熱を帯びているように赤く染まっていく。
「殿下、私は……王妃としておそばにいてもいいのでしょうか……」
不安げに問いかけるサヤの言葉からは、彼女がそれを切実に願っていると感じられ、レオンは「もちろん、なにも悩むことはない」と言って大きく笑った。
王命によって王妃に召し上げられたサヤにそれを拒むことはできない。
たとえレオンとの結婚に絶望していたとしても、そしてレオンの側にいることが苦痛であってもそれを口にすることはできないのだ。