王太子の揺るぎなき独占愛
「……なんでもない」
サヤはぎこちなく笑った。
「なんでもないって顔じゃないけど。もしかして、マリッジブルー? 王妃様になるのが怖くなったの?」
「違うよ。もちろん私が王妃にふさわしいとは思わないし、もっと勉強しなきゃって思ってるけど」
弱々しい声でつぶやくサヤの姿に、ルイーズはくすりと笑った。
「もっと勉強しなきゃって、昔からよく言ってた。サヤは真面目に一生懸命お勉強をして、森の仕事も手を抜かないし、困ってるひとがいればちゃんと助ける」
「ルイーズ?」
ルイーズは思い返すように言葉を続ける。
「来週までに提出すればいい課題でも、それまでになにがあるかわからないって不安がってその日のうちに徹夜で終わらせて、結局、体壊して寝込んでた」
「あ、うん。早くしなきゃ気になって気になって……」
思い当たることがありすぎて、サヤは苦笑した。
するべきことをそのままなにもせずおいておくことができず、少しでも早くやってしまわないと落ち着かないのだ。
「あの頃と同じ顔をしてる。もっとゆっくりと気楽に考えればいいのに、悩んで悩んで疲れてる」
「そんなこと、ない」
サヤはそう言いながらも、強く否定できなかった。
王妃教育で疲れているのもあるが、いくら勉強を続けても、なかなか思うように身に付かないことに情けなさを感じていた。
レオンをはじめ、サヤを指導する者たちはみな大丈夫だと言っているが、サヤは納得できずにいた。王妃になると覚悟を決めたからにはなにごとも完璧に身につけたいのだ。
ダンスはステップを間違えずに、軽やかに踊りたい。
礼儀作法も完璧に身に着け、周囲の様子をちらちらと気にすることなく動きたい。
それに、レオンの隣に立ったときに、誰もが自分を王妃として認めてくれるくらい、自信を持ちたい。
そして、そして……。
他の女性と比べられたくない。