王太子の揺るぎなき独占愛
王家に嫁ぐからには感情を露わにしないように気をつけなければと思っていた。
にも関わらず、サヤはルイーズと久しぶりに会って気持ちが緩んでしまった。
レオンとイザベラの親しさに戸惑っていることは胸にしまっておくつもりだったが、つい、口に出してしまった。
それどころか、愚痴ともとれる言葉を繰り返し、ルイーズを困らせた。
サヤは王城のキッチンでため息をついた。
「はい、取り出しますから気を付けてくださいね」
「あ、ごめんなさい」
ぼんやりと考え込んでいたサヤは、ハンクの言葉に慌てて後ろに下がった。
「おいしそうに焼きあがりましたね。これならジュリア様も喜んで食べてくださいますよ」
焼き窯からハンクが取り出したのは、焼きあがったばかりの洋ナシのパイだ。
カスタードクリームの甘さと洋ナシの酸味が絶妙なバランスを生みだすおいしいパイ。
ほんのりと茶色い焼き目がつく程度に焼いたパイは、生地がさくさくとしていてその歯ごたえもなかなかのもの。
「サヤ様は本当にお料理やお菓子作りがお上手ですね。先日のシュークリームやマカロンも絶品でした」
料理長のハンクは、取り出したパイをテーブルに用意していた大きな木皿に載せた。
キッチンに甘くいいにおいが広がった。
「ジュリア様、お薬はちゃんと飲んでくださったのかしら。いつも薬草のにおいをかいだだけで飲みたくないって言ってお医者様を困らせてらっしゃるけど……」
「お飲みにならなかったらしいですよ。侍女たちが困ってました」
肩をすくめるハンクに、サヤも眉を寄せた。
「やっぱり。いつもだだをこねてお飲みにならないし。ご結婚されたらそうもいかないから心配だわ……」