王太子の揺るぎなき独占愛



 思いがけないことばかりを聞かされ、サヤは黙り込んだ。

 ジュリアの刺繍の腕がかなりのものだというのは周知の事実だが、編み物まで得意だとは知らなかった。

 今ジュリアが着ているガウンは、市で売ればすぐに買い手がつきそうなほどの出来栄えだ。
 おまけに製糸工場に自ら出向き、職人とともに染色にまで関わっていたとは。

 サヤは再びジュリアのガウンに視線を向けた。
 細い毛糸で編みあげているが、模様を出すためにはかなりの手間がかっているだろう、袖口はゆったりと広がっていて美しい。

 刺繍も編み物も苦手なサヤにはとうてい作れそうになく、思わずため息が漏れた。

「ジュリア様、本当に器用ですね。私にはとても作れません。それに、染色なんて、ちんぷんかんぷんです……」

 感嘆の声をあげるサヤに、ジュリアはまんざらでもない表情を浮かべた。

「そうね。刺繍と編み物は大好きだし誰にも負けない。何時間没頭しても苦じゃないし。まあ、お勉強は嫌いだったけど、刺繍が得意で交易の役にも立ってるから、お父様たちも目をつぶってくれたし」
 
 ふふっと肩をすくめるジュリアに、サヤも小さく笑った。
 ジュリア王女の勉強嫌いは有名で、家庭教師が何人変わっても、思うような成果はあがらなかった。
 ジュリア本人に勉強をする意志がそれほどなかったのだから仕方がないのだが。

「ごちそうさま。これで元気が出た。薬草なんかより、サヤが作ってくれるパイの方が絶対に体にいいわよ」

 紅茶を飲みながら頷くジュリアに、サヤはくすりと笑った。傍らの侍女も肩を揺らし笑っている。

「パイはもちろんおいしいですけど、お薬も合わせて飲めばもっと早く元気になりますよ」

 サヤの声に、ジュリアは顔をしかめ、首を振った。

「飲まないと絶対に病気が治らないっていうなら飲むけど、自分の力で治るなら、時間がかかってもいいから、飲まない。あの苦さはまるで毒よ」
「毒って……たしかに苦いですけど」

 大きな声で言い切ったジュリアに、サヤは返す言葉もない。薬草の効果はもちろん認めているが、ジュリアが言うように飲みづらく苦いのもたしかだ。
 サヤ自身、飲まずに済むのならば飲みたくはないのだ。

 あまりにも素直にそのことを口にするジュリアを、羨ましく思った。


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