王太子の揺るぎなき独占愛
「サヤとおそろいだったら、お兄様もきっと喜ぶわね。ふふ。でも、顔には絶対出さないし、サヤとふたりきりのときにしか身に着けてもらえないだろうけど」
「あ、あの、とんでもございません。ジュリア様に編んでいただくなんて、とんでもない」
いくら得意だとはいえ、王女に編んでもらうわけにはいかない。
サヤは胸の前で両手を横に振って断った。
「いいのいいの。私の得意なものってそれくらいだし。私がステファノ王子と結婚できるようにお兄様が後押ししてくれたしね。それに……編み物や刺繍に集中していると、他のことを考えなくて済むから……。あ、ううん、なんでもない」
一瞬、ジュリアの声とは思えない沈んだ声が聞こえたが、彼女はすぐに明るい表情を浮かべると、話題を変えるように言葉を続けた。
「私もサヤみたいにこの洋ナシのパイが上手に作れるならいくらでもお兄様に焼いてあげるんだけど。お料理もお菓子作りもまるっきりできないから。キッチンを荒らすだけ荒らして使用人たちを困らせるだけだから二度とキッチンに入るなっておこられちゃったくらい」
ジュリアは恥ずかしそうに肩をすくめた。
ジュリアは、刺繍や編み物の職人ばりの腕の確かさに反して料理はまるでできない。
王族が自ら料理をする機会などなくて当然なのだが、好奇心旺盛のジュリアは何度か料理にトライしている。
そのたび散々な結果となり、そのたび落ち込んでいる。
「お兄様もこの洋ナシのパイが大好物なの。だから取られるまえに急いで全部食べようと思ったんだけど、体調が悪いと半分が精一杯。だから、この残りはお兄様に絶対に取られないようにしなきゃ」
「あ、はい……」
まるで国を動かす重要事項を口にするかのような重々しい声でうなずいたジュリアに、部屋の戸口に控えていた侍女がとうとう声を上げて笑い出した。
「な、なによ。お兄様に見つかったらそれこそすぐに食べられちゃうんだから」
ぷいっと横を向いたジュリアの顔は赤く、子どものようだ。
そのかわいらしさにサヤは口元を緩めた。
普段の王女然とした気品のあるジュリアもいいが、こうして自分の感情を素直に出している姿はさらに魅力的だ。
わがままともいえる言葉で周囲を困らせることも多い彼女が誰からも好かれているのもよくわかる。