王太子の揺るぎなき独占愛
もう少し距離を縮め、仲良くなれればと思うが、サヤが王家に嫁ぐよりも前に、ジュリアは隣国へと嫁いでいく。
それも、あと一か月に迫っているのだ。
サヤはジュリアの小さな背中を見つめながら、彼女が背負う寂しさを思った。
華やかで目を引く手編みのガウン。
ジュリアはきっと、溢れる寂しさを紛らわせるために編み物に熱中していたのだろう。
サヤも、ほんの少し前までは王命によって他国に嫁ぐ可能性があったのだ。
そのことを考えるたび、寂しさと不安で心がつぶれそうだった。
たとえジュリアの結婚が、本人が望み、愛する人との幸せなものだとしても、母国を離れ、見知らぬ土地、それも王家に嫁ぐのだ、不安がないわけがない。
元来の明るい性格でごまかしているが、緊張と不安で押しつぶされそうになっていても不思議ではない。
体調を崩すほど徹夜を重ね編み物をしていたのも、そんな不安を忘れるためだったのかもしれない。
それはまるで、王家に嫁ぐ不安を少しでも小さくするために王妃教育に必死で取り組んでいる自分のようだと、サヤは感じた。
サヤは、テーブルに残されているパイを見ながら、あることを思いついた。
「ジュリア様、もしよろしければ、洋ナシのパイの作り方をお教えいたしましょうか?」
「え、本当?」
「はい。私からお願いして、キッチンをお借りします。洋ナシは森にたくさん実っていますから、何度でも作れますよ」
余計なことかもしれないと思いながら、サヤはジュリアの答えを待った。
「えっと、サヤが想像している以上に私のお料理の才能のなさは絶品で、二度とお鍋に触るのは許しませんってお母様にも言われたくらい。……大丈夫?」
ジュリアは恐る恐るサヤを見た。すると、サヤは笑顔を浮かべ何度もうなずいた。