王太子の揺るぎなき独占愛




 長きにわたり、ファウル王国には平和な時間が流れ、近隣諸国との関係も良好だ。
 その穏やかな時間の中でも騎士団の訓練は厳しいと聞いていたが、その成果が実践で発揮されることはないのだろうと、根拠なく思っていた。

 しかし、鋭い視線と畳みかけるような口調で戦という言葉を口にしたジュリアの表情を見て、それは安易な考えなのだと、サヤは感じた。

「もちろん、戦がない世がこの先ずっと続けばいいと、誰もが願っているわ。そのために努力を重ねているし、話し合いもある。私がラスペードに嫁ぐのも、結局は両国の関係を良好に保つ契約のようなものだし。……私は人質ともいえるのよね」
 
 普段の軽やかな口調と違う静かで落ち着いたジュリアの言葉に、サヤはハッと視線を上げた。
 同時に、自分の考えは甘かったかもしれないと感じた。

 レオンとの結婚を、軽々しく考えていたかもしれない。

 そう気づいた途端、刺繍が苦手だと駄々をこねていた自分は、王妃になる覚悟が本当にできていたのだろうかと、怖くなった。

 薬を飲むのは嫌だと言っては拗ねたり、城下の製糸工場に通っては職人とともに新しい色の糸を開発したり。
 ジュリアの王族としての意識の低さを感じていたサヤだが、それは自分の傲慢な思いだったと実感した。
 決して暗い表情を見せず軽やかに生きているジュリア。
 結婚相手でさえ、初恋の相手であるステファノ王子でなければイヤだと強い思いを貫いた。
 王女特有のわがままだと思われるのも気にせず、愛する人との結婚を実現したのは、王族に生まれた彼女にとっては奇跡ともいえる。
 その奇跡は、国の未来を左右する、深い意味のあるものなのだ。

「まあ、政略結婚をして人質にならないといけないのなら、愛するひとの人質になる方がいいでしょ? そう思えば、私ってかなり幸せ者よね」

 ジュリアは、サヤの硬い表情をやわらげるように、明るく笑った。


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