王太子の揺るぎなき独占愛
ジュリアから、自分が使っていたこの作業部屋と部屋の中にあるものすべてを譲ると言われ、サヤは全力で断ったのだが、ジュリアは二度とこの作業部屋を使うことはないと言って強引に話を進めた。
そしてすぐにジークを呼び寄せ、サヤを作業部屋に案内させた。
ジュリアも一緒に来て部屋の説明をしようとしたのだが、彼女がここにくればすぐに刺繍を始めるはずで、まだ体調が戻りきらない彼女はジークに止められたのだ。
『なにごともこつこつ頑張れば、上達するものよ。刺繍だって同じ。お兄様のために、作業部屋で練習練習』
サヤはそう言って笑ったジュリアの顔を思い出しながら、作業台に刺繍糸を並べ、そして刺繍針を天井にかざした。
「この針が、思うように動いてくれないのよ。それに、糸がからまってどうしようもないし……」
サヤはこれまでの数少ない自分の刺繍を思い出してがっくりと肩を落とした。
母のカーラから教わろうとしたこともあるのだが、カーラも得意ではなく、「刺繍が得意な人はたくさんいるから、お願いすればいいのよ」とあっけらかんと笑っていた。
サヤはカーラの言葉に甘え、刺繍の練習をこれまでしてこなかったことを、心から後悔している。
「だけど、どうしても苦手だし……。森の仕事も忙しかったし……」
言い訳を口にしつつ、それでもやるしかないかと、練習用の布を探そうと棚を見回した。
すると、部屋の片隅に大きな籠が置かれているのに気づいた。
しゃがみ込み、籠の中身を確認すると、そこには大きさもバラバラ、種類もバラバラの布の端切れがたくさん詰め込まれていた。
ジュリアが使った布の残りがまとめられているのだろう。