王太子の揺るぎなき独占愛
「端切れなら、気楽に練習できそう」
ジュリアに本格的に教わる前に少し練習しようと思い、ジークが仕事に戻ったあとも部屋に残ったのだが、いざ材料を手にしても、どこから始めればいいのかわからない。
とりあえず、サヤは籠の中から薄手の綿の布を一枚取り出した。ちょうど手の平くらいの大きさで、ビオラの刺繍の練習をするにはちょうどいい。
「とにかく、やってみよう」
気合を入れるようにつぶやき、立ち上がろうとしたとき、部屋のドアが慌ただしく開き、大きな話し声とともに誰かが中に入ってきた。
サヤは危険を感じ、しゃがみ込んだまま身がまえた。
ここなら作業台やボディの陰に隠れて戸口からは見えないはずだ。
サヤはいざというときに備え、近くにあった裁ちばさみをそっと手に取った。
そして、戸口をうかがうように耳を澄ませ、息を詰めた。
「頼むよ。イザベラしかいないってお前もわかってるんだろ? 子どものころから心を許しているのはお前だけなんだ。長い付き合いだから、それくらい言わなくてもわかるだろう」
その切羽詰まった声を聞いて、サヤはハッと体を揺らした。
聞き覚えのあるその声は、レオンのものだ。
普段聞くことのない焦りを帯びた声に、サヤは胸騒ぎを覚えた。
「本当、子どものころと変わらず勝手なオトコね。いったい、私の人生をどう考えてるのかしら」
レオンの声に続いて聞こえてきたのは、イザベラの声だった。
イライラし、怒っているような彼女の声を聞いて、サヤはそっと視線を動かした。
作業台の足元に身を潜めているサヤは、ふたりに見つからないよう気を付けながら様子をうかがった。
「そ、それは……もちろん、イザベラの幸せも考えてる」
「嘘。レオンは自分のことしか考えてない。サヤは王妃として幸せになるっていうのに、どうして私はレオンの思うがまま好きにされなきゃならないのよ」