王太子の揺るぎなき独占愛



「あらあら。サヤと刺繍針の相性は本当に最悪ね」

 屋敷に戻り、刺繍の練習をしているサヤに、カーラが朗らかに声をかけた。

 居間のソファに背を丸めて座り、必死で手を動かすサヤの姿はどこか滑稽で、それでいて愛らしい。

 カーラは隣に腰かけると、サヤの手元を覗き込んだ。

 白い綿の生地に青い糸で作られた模様が浮かび上がっているが、ひと刺しごとの長さも向きも微妙にバラバラで、お世辞にもキレイだとは言えないものだ。

「それって、ビオラ? 即位式でレオン殿下がお召しになる軍服に刺繍をするのよね」
「え、母さん知ってたの?」

 カーラがそのことを知っていたことに、サヤは驚いた。

「知ってたのって……誰でも知ってるわよ。その青い軍服は、即位式のときにだけ着るもので、式が終わったら神殿に納めるんでしょ?」

「どうして? 一回しか着られないの?」

「サヤ、あなた王妃教育でなにを勉強しているの? こんな基本的なこと、ちゃんと……って、そうか。基本的なことすぎるから、わざわざ王妃教育で勉強することでもないわよね」

 納得したようにうなずいたカーラは、同情を込めた目をサヤに向けた。

「森のことならおまかせって胸を張れるのに、それ以外のことにはまったく興味がなかったものね。なにも知らなくても仕方がないわよね」
「う……ん。まあ、最近、そのことに気づいてかなり焦ってる」

 サヤは刺繍をする手を休め、座ったまま大きく体を伸ばした。一時間以上集中していたせいで、体が強張っている。

「王妃教育は順調なの? 真面目なあなたのことだから、頑張ってるのはわかるけど、知らないことだらけで大変でしょ?」


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