王太子の揺るぎなき独占愛
不安げに問いかけるサヤに、レオンは安心させるような笑顔を見せた。
「サヤがよく離宮に泊まり込むと聞いていたんだが。そのときには城から警護の騎士が派遣されるだろう? 今日は俺がその警護にあたることにしたんだ」
「は……? え、レオン殿下が警護、ですか?」
驚きで、サヤの声は裏返った。
サヤだけでなく、ルブラン家の誰かが森の世話のためにこの離宮に泊るときには、食事の用意をしてくれるシェフと数人の侍女だけでなく、周辺を警護するための騎士たちが寄越されるのだが、まさか王太子自らその任務に就くとは信じられない。
「じょ、冗談、ですよね?」
人を驚かせるのが好きだというレオンのことだ、サヤをびっくりさせようと突然離宮を訪ねてきたのだろうと、サヤは納得する。
けれど、レオンはくくっと笑いもったいぶるように口を開いた。
「冗談じゃないぞ。今晩は隣の部屋に控えてお前のことを守ってやる」
低く艶やかな声が部屋に響き、サヤの胸をざわつかせた。
本気で言っているとは思わないが、憧れている男性から守ってやると言われて、平然としていられるわけがない。
相変わらずサヤの背に回されたままのレオンの腕がなければくずおれてしまいそうなほど、足から力が抜け、ふらりと揺れる。
「それほど驚くことでもないだろう。俺はもともと騎士団長も務めていたんだ。警護くらい余裕だ」
自慢げにそう言って、レオンは目を細めた。
「なにが余裕ですか。たとえ以前は優秀な騎士団長だったとしても、王太子なのですよ。警護にあたるなんてとんでもございません」
突然、部屋の入口から静かな声が聞こえた。静かだとはいっても、怒りを含んだ重々しい声に、サヤはぴくりと体を強張らせた。
「勝手に城を抜け出してこちらにいらっしゃるとは、王太子としての自覚がなさすぎます。それに、サヤ様も驚かれていますよ」
大きなため息をついたと同時に部屋に入ってきたのは、ジークだった。
五十歳を少し過ぎた彼は、王城を取り仕切っている優秀な執事だが、細身の体にぴったりとした濃紺の燕尾服を着ているせいか、堅苦しい雰囲気を漂わせている。
今も切れ長の目をさらに細め、レオンを睨んでいる。