王太子の揺るぎなき独占愛
「殿下、そろそろ落ち着いていただきませんと、殿下を警護している騎士や城の侍女たちが大変困っております」
畳みかけるように言葉を落とすジークに、レオンは苦笑した。
「そうだな。俺もそろそろ落ち着こうと思っているんだ」
レオンはサヤの背に置いた手を彼女の肩に回すと、そのまま引き寄せた。
「あ、あの、レオン殿下」
突然抱き寄せられ、再びバランスを崩したサヤは、思いがけずレオンの胸に飛び込んだ。
城から森を抜けてここまで来たのだろう、その胸からは今が盛りの金木犀の香りがした。
「俺は生まれてからずっと王太子をやってるんだ。そろそろどうするべきなのかは自分が一番わかってるさ」
サヤの目の前でつぶやくレオンの瞳が、一瞬鋭くなった。
それまでの飄々とした物腰とは結びつかない瞳の色に、サヤはたじろいだ。
王太子殿下。
そう呼ばれるのがふさわしい威厳を瞬時に漂わせるレオンに、サヤの心はときめいた。
が、それも束の間、サヤの顔を覗き込んだレオンの表情にはいたずらめいた明るさが戻っていた。
気のせいだったのだろうかとサヤは戸惑うが、そんな感情の揺れに悩む間もなくレオンは軽やかな声をジークに向けた。
「サヤの警護を兼ねて、一緒に森に入る。明日からルブラン家の女性たちが何人か来るらしいが、今日のうちにやれるだけのことはやっておく。俺の警護の騎士たちも総出で済ませるぞ」
どうだいい考えだろう、とばかりに胸を張るレオンに、ジークは表情を変えないままため息を漏らした。