王太子の揺るぎなき独占愛
「あ……あの、殿下……」
キスに夢中になっていたサヤも、我に返ったように姿勢を正した。
ふたりは婚約後何度かキスを交わしていたが、ここまで強い思いを重ね合ったことはなかった。
「食事なら、運んでくれ」
レオンがノックの音に答えるようにそう言ったと同時にドアが開けられ、ワゴンに乗せらえた食事が運び込まれた。
「おふたりともお忙しくてお疲れでしょうから、力のつくものをご用意しました」
侍女たちが料理をテーブルに並べはじめた。
レオンはサヤの頬をそっと撫でたあと、名残惜しそうにその場を離れ、サヤの向かいの席に着いた。
「スープはサヤ様が森で育てられたカボチャを使ってポタージュにいたしました。バターの風味を効かせて濃厚に仕上げております。お肉料理はレオン殿下がお好きなヒレ肉のステーキでございます。焼き加減はミディアムとウェルダンの間あたりでございます。サヤ様の好みに合わせてみましたが、いかがでしょう?」
料理長のハンクは、次々と並べられる料理に目を輝かせているサヤに、問いかけた。
「あ……はい、お肉はたくさん焼いていただいた方が好きなので、この焼き加減、うれしいです。ありがとうございます」
頭を下げるサヤに、ハンクは目を細めた。
ハンクは自分の娘と変わらない年齢のサヤに、少しでもおいしいものを食べてもらおうと腕をふるった。
ましてや生まれたときからその成長を見守ってきたレオンの妃となるのだ、サヤがかわいくて仕方がないのだ。
「デザートにはサヤ様の大好物だというマカロンを用意しました。たくさんありますので、存分にお楽しみください」
「わあ、ありがとうございます。私、マカロンに目がなくて。自分でも作るんですけど、やはり料理長にはかないません。また今度、ちゃんとした作り方を教えてくださいね」
「もちろん、喜んで。結婚式を終えられて落ち着いたころにでも、ゆっくりと」
「はい。楽しみにしてます」
うれしそうな声をあげるサヤに、ハンクはにこやかにうなずいた。
レオンは、ふたりが仲良く話す様子が気に入らず、顔をしかめている。
久しぶりに会えたサヤを独占したくてたまらないというのに、とんだ邪魔が入ってしまった。