王太子の揺るぎなき独占愛



「料理の説明はいいから下がれ。給仕もいらないから、ふたりにしてくれ」

 レオンは、料理を並べ水をグラスに注いでいる侍女にそう言った。
 そのぶっきらぼうな口調に、侍女が傷つくのではないかとサヤはヒヤヒヤしたが、侍女ふたりはくすりと笑い、目くばせをした。

「承知いたしました。おふたりでごゆっくりお食事をお楽しみくださいませ」

 やたらゆっくりと答える侍女に、レオンはムッとした。
 そして、自分がサヤとふたりになりたがっていることを見透かされ、居心地が悪そうに体を動かした。

 ハンクや侍女が部屋を出たあと、ふたりはおいしい料理に舌鼓を打った。

 本来なら前菜、スープ、魚料理と順に出てくるのだが、サヤとふたりきりで食事を楽しみたいためデザートとコーヒー以外はすべて一度に並べさせた。
 そんなことをすれば料理が冷めてしまうというのに、構わないと言ってハンクを呆れさせたことは、サヤには秘密にしている。
 とにかく、久しぶりのふたりの時間を楽しみたいのだ。

「あ、真鯛のポワレですね。わたし大好きなんです」

 テーブルに並んだ料理に弾む声をあげるサヤを、レオンは優しく見つめた。

 ここ数日、イザベラと作業部屋で会っているのを見られたかもしれないと落ち着かない日々を過ごしていたが、これまでと変わらない様子にホッとした。
 もしも見られていて誤解されているとしても、サヤが納得するまで事情を説明するつもりでいた。
 もちろん、誤解したサヤがレオンとの結婚に躊躇するようなことがあっても、手離すつもりは毛頭ない。
 レオンは力づくででもサヤを妃にするつもりで今日この場に招き、ふたりきりの時間を作ったのだが。

「あ、ワインをおつぎしますね」

 立ち上がってテーブルを回り、てれくさそうにレオンのグラスにワインを注ぐサヤを見ればその必要はないと、安心した。

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