王太子の揺るぎなき独占愛
愛するひとに完璧なものをと頑張るサヤとジュリアだが、実はもう、これ以上練習する必要がないほどの腕前なのだ。
ふたりとも、それに気づいていない。
そして、そのことを城の誰もが口にしない。
愛するひとのために力を尽くすふたりを、温かく見守っているのだ。
その後サヤの何度目かのビオラの刺繍が完成したが、やはり彼女は首をかしげている。
まだまだ上手にできるはずだとつぶやきながら、体を伸ばしていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。
「あら、昼食の時間にはまだ早いわよね。誰かしら」
サヤとジュリアは顔を見合わせた。
そして、「どうぞ」と声をかける。
すると、ゆっくりとドアが開き、ジークが顔をのぞかせた。
「サヤ様、よろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうしたの?」
サヤは立ちあがり、ジークのもとに行った。
部屋の外には、ジーク以外にも侍女がひとり立っていて、なにかあったのかと戸惑った。
「えっと、なにか……」
不安げにジークと侍女に視線を巡らすサヤに、ジークはにっこり笑って口を開いた。
「ご心配なさることはなにもありません。王妃殿下がサヤ様にお会いになりたいとおっしゃておりますので、ご準備いただけますか?」
「え、王妃殿下が? どうして……?」
王妃シオンとは朝食をともにしたばかりで、そのときはとくになにも言われなかったのだが。
国王夫妻、レオンとジュリアとともに、普段通りおいしい朝食を和やかにいただいたばかり。
最近始めたチェスについて楽しそうに話していたラルフを温かく見つめていたシオンの美しい横顔を思い出しても、変わった様子はなかった。