王太子の揺るぎなき独占愛
次期王妃に毒のレシピを伝えるのは、避けられない義務だとわかっていても、やはりつらいのだ。
シオンは、前王妃から教えられたときの苦しみも忘れられないが、サヤの悲しむ姿もこの先ずっと忘れられないだろうと、唇をかみしめた。
「一度しか使わないって、それは、レオン殿下に使うってこと……」
サヤはぼんやりとつぶやいた。
たった一度、それも、愛しいレオンの命を絶つために自分が毒を作る。
「やだ……できない」
毒のレシピだと言われても、ピンとこなかった。
おまけに普段から手にすることの多い薬草の名前が書かれていては、毒とは思えない。
それでも、シオンが嘘を言うはずがない。
手渡されたリュンヌはとても小さく、乾燥させて砕けば微量の粉が残るだけ。
それが、決められた分量の他の薬草と合わせれば毒になる。
微量とはいえひとひとりの命を奪うのだ。
サヤは苦しみを逃がす術をなくしたようで、背筋が冷たくなるのを感じた。
「毒なんて、レオン殿下のための毒なんて……作れない」
サヤの視界がどんどんぼやけていく。
「サヤ?」
シオンの焦った声が遠くに聞こえるが、今のサヤに、それに答えるだけの力はない。
おまけに足元がふわりと浮き、どこを向いているのかもわからない感覚に襲われた。
「サヤ、どうしたの、しっかりして」
シオンの声に右手を上げて応えるも、どれだけ手が動いたのかもわからないまま、サヤの意識が途切れていく。
そのとき、温室のドアが勢いよく開き、シオンとは違う声がサヤを呼んだ。
「レオン殿下……?」
遠のく意識の向こう側に、焦った顔をしたレオンが走り寄る姿を見ながら、サヤの意識はぷっつり途切れた。
「サヤっ」
くずおれるサヤの体が地面に打ち付けられる寸前、レオンの腕が伸び、サヤの体を受け止めた。