王太子の揺るぎなき独占愛
森はルブラン家の女性たちが管理しているが、力仕事はルブラン家出身の騎士たちが行っている。
森の内情をルブラン家以外の者に知られるわけにはいかないからだ。
明日予定している森の冬支度は、毎年済ませている定例的な仕事で、明日以降ルブラン家の女性がかわるがわるやってきて、一週間ほどで作業を終える予定だ。
合間に騎士たちも派遣され、女性たちの指示のもと働くのだ。
決して簡単な仕事ではなく、ときには木を伐採することもある。
それを王太子であるレオンが手伝うなど、あり得ない。
「レオン殿下、あの、お怪我をされたら大変です。ルブラン家の者で例年通り終えますのでお城にお戻りください」
サヤは背中に感じるレオンの手の温かさを意識しないよう気を付けながらそう言った。
それに、たとえ気まぐれでレオンがこの離宮に来たのだとしても、これほど近い距離で言葉を交わせばやはりうれしい。
その思いが顔に出ていないかと、サヤはそっとうつむいた。
すると、レオンは腰を下げ、サヤの顔を覗き込んだ。
「サヤが森を気に入っているように、俺だって森に癒されながら育ってきたんだ。季節ごとに表情を変える木々や花を愛でながら昼寝もしたし、川で泳いだり魚を釣ったこともある」
「はい……。森で過ごされている殿下を何度かお見かけしました」
サヤはそのときのことを思い出す。
それは、彼女が王家の森の世話を続けたい理由のひとつでもあるのだ。
公務をこなしているときとは違い、気持ちを解放して森での時間を楽しむレオンはとても魅力的だった。けれど、たまたま森でレオンの姿を見かけても、気軽に声をかけられる相手ではない。サヤは遠目からそっと見つめ、レオンの邪魔をしないようにその場をあとにしていた。
ほんのわずかな時間。けれど、決して近づくことのできない王太子を見つめることができる極上の時間だ。
サヤにとって王家の森は、レオンへの思いを温めることができる大切な場所。
サヤは、やはり結婚して他国に嫁ぐなんてできないと、切なさを覚えた。