王太子の揺るぎなき独占愛



「どうしたんだろう」

 サヤは首をかしげつつ起き上がると、サイドテーブルにたたまれていたレオンの長衣を手に取り袖を通した。
 シオンが着ていた長衣と色は違うがよく似ている。
 これもきっと、ジュリアが作ったのだろう。

 サヤは自分には大きすぎる長衣を見ながら、温室でのシオンとの会話を思い出した。
 それだけでなく、長衣の内ポケットから取り出された毒のレシピのことも。

「あのレシピ、どうなったんだろう……」

 毒として使われる薬草の名前を見た瞬間、サヤは大きな衝撃を受けた。
 それまで病を治す薬としてたくさんのひとに渡してきたものが、毒になるとは思いもしなかった。
 そのショックは予想以上で、意識を失うほどだった。

「それに……」

 サヤが倒れたあと、シオンがどうしているのか、気になった。
 優しい彼女のことだ、サヤが倒れてしまい、その必要はないのに自分を責めているかもしれない。

 意識を失ってしまったのは、心が弱すぎるせいだ。
 もっと心が強ければ、倒れることもこうして青あざを作ることもなかった。
 それに、毒の存在を知らされて、あれほど混乱することもなかっただろう。
 今も毒のことを考えれば体中が痛みを覚える。
 レオンの命を絶つものを、自分の手で作らなければならないのだ、どうしようもなく切なくなる。

 サヤは肩を落とし、ため息をついた。

 しかし、温室で感じていたほどの苦しみは、今はもう残っていない。

 思い出せばたしかに切ないが、気を失うほどではない。

 目が覚めたとき、サヤは気を失ったことをすぐには思い出せなかった。
 レオンに抱きしめられていたせいで、それどころではなかったのだ。
 レオンの体温を意識して、身動きひとつとるのにも緊張した。
 おまけにレオンの手はサヤを誘惑するように動き、それこそサヤの体は震え続けていた。


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