王太子の揺るぎなき独占愛




 たしか毒に関する話をしていたはずだ。
 それも、レオン自身に使われるための毒の話。

 だというのに、他のことを考えながら笑っているレオンのことを、サヤは信じられない。

 きっと、レオンはサヤの心を理解していないのだ。

「殿下は、なんとも思っていないのですか?」

 レオンの態度が信じられず、サヤはいつになく荒い声をあげた。

「私は、殿下の命を絶つための毒を作らなければならないと聞いて、悲しくて苦しくて、どうしようもなくて……」
「うん、それは大変だな」

 レオンは大したことではないように相槌を打つ。

「そんなひとごとのように言わないでください。わ、私は殿下が死んだらどうしようって、それも、私が作った毒で……そんなの絶対にイヤ」
「俺もサヤを置いて死にたくないな」

 相変わらずのんきなレオンの声に、サヤはわなわなと震えた。
 そしてこぶしを握り締め、ベッドの端に腰かけているレオンににじり寄る。

「殿下は怖くないのですか? 自分に使われるためだけに、私が毒を作ること、平気なんですか?」

 サヤはレオンの目の前で膝立ちし、感情に任せて言葉を落とすが、それでもなお、レオンは笑顔を浮かべている。
 その満ち足りた笑顔を見ていると、自分が口にした言葉は愛の告白だったのだろうかと不安になる。

「殿下……」

 結局、サヤがなにを言ってもレオンの心には響かない。

 レオンは毒を飲むことにためらいはないのだと感じ、サヤは自分が見捨てられたような気がした。
 国のために命を落とすのならば、たとえサヤひとりを遺しても平気なのだろうか。
 ほんの少し前まで、強く抱き合い深く口づけを重ねたというのに、あれは意味のないものだったのだろうか。


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