王太子の揺るぎなき独占愛
今までの軽やかな口調から一転、レオンは表情をひきしめしっかりとした口調でサヤに言い聞かせる。
「毒があったとしても、使わなければ単なる薬草だ」
「薬草……」
「そうだ。おまけにリュンヌ以外の薬草はすでに調合してあるんだ。サヤがすることといえば、薬さじで分量を量って、混ぜるだけだ。そんなの誰でもできる」
レオンはサヤの両肩に手を置き、「そうだろ?」とにっこり笑う。
その口調の強さに気おされそうになりながら、サヤはレオンの言葉を反芻する。
「誰でもできる……」
「そうだ、分量さえ知れば、誰でも毒を作れるんだ。ただ、その分量は王妃の頭の中だけに保存されているから、俺たちの子どもに王位を譲るときまで、サヤは記憶の奥に、分量はしまっておけ」
「は……はい。え? 頭の中?」
「そうだ。今日温室で王妃殿下から見せられたレシピだって、王妃殿下はサヤに会う直前に慌てて書いていたんだ。そして、サヤが倒れたあとすぐに焼却炉にポイだ。俺だって正確な分量は教えてもらえない。今それを知っているのはこの世で王妃殿下とサヤだけってこと」
紙に書いて残しておけば、誰かの目に触れる危険がある。
その危険を避けるために、王妃自ら次期王妃に直接伝えなければならないのだ。
「王妃殿下と私しか知らないなんて、気が重いです」
今にも泣き出しそうな声でサヤはつぶやくが、レオンはそんな彼女に表情を緩めた。
「毒といってもたかが薬草の詰め合わせだ、とっとと作ってすっきりしろ。俺が王位に就いている間は、それを使わなければならないような状況が起きるわけがない」
「……すごい自信ですね」
悩んでいる自分がおかしいのではないかと思えるほど、レオンはあっけらかんと言ってのけた。
サヤにとっては気を失うほどの苦しみは、レオンにとっては取るに足らないささいなことなのだ。
しかし、それに気づいたからといって、サヤが毒を作らなければならないことに変わりはない。
ただ、ひとりで抱えていた苦しみの一部をレオンが引き受けてくれたようで、不安だらけだったサヤの心は落ち着いた。