王太子の揺るぎなき独占愛
「毎年のことだとはいえ、結構な仕事量だな」
作業で疲れた体を伸ばし、辺りを見回したファロンは、自分たちが覆い終えた薬草たちを満足げに見る。
スラリとした長身と、端正で凛々しい顔のファロンは太陽の光を浴びて輝いていた。
彼を見つめていたサヤは、我が弟ながら素敵な男性に成長したと感心する。
レオンの警護を担当する騎士のひとりであるファロンは、真面目な性格と、しなやかな身のこなしと優れた剣さばきによって王族から重用され、いずれは騎士団長になるだろうと言われている。
名家ルブラン家の中でも末端ともいえる家に生まれたことをハンディとせず、実力で王家からの信用を得た彼に一目置く騎士は多く、それがサヤの自慢でもある。
「まさかとは思うけど、この作業を姉さんはひとりでするつもりだったのか?」
「え?……ま、まさか」
ファロンの問いに、サヤは視線を泳がせた。
「わらを運び入れるだけでも一仕事なのに、この広い薬草畑を覆っていくなんて、ひとりじゃ無理だろ」
あきれたようにつぶやくファロンに、サヤはなにも言わず笑った。
そして立ち上がり自分よりも頭ひとつ分背が高いファロンを見上げた。
「たしかにひとりで終わらせるなんて無理だけど、少しでも進めておけば明日からの作業がラクでしょ?」
目を合わせようとしないサヤの焦りが伝わり、ファロンは苦笑した。
「まあ、そういうことにしておいてもいいけど。家にいづらいからってここに逃げても仕方ないってのは……わかってるよな? 姉さんを気にかけている父さんと母さんの気持ちも考えろよ」
「うん……。わかってる」
「たしかに、他国に嫁ぐことになれば不安も多いだろうけど、いずれは姉さんも結婚するんだし。だけど、まだなにも決まっていない今から悩んでも仕方ないだろ?」