王太子の揺るぎなき独占愛
そのとき、事務所の中を確認していた騎士から合図が送られてきた。
お互いの手の動きで簡単な意思疎通ができるのだが、その動きの意味にレオンの表情が固まった。
「は……? まさか」
三十メートルほど離れていても、見間違うわけがない。
待機しているファウル側の騎士たちもその意味を読み取り、静かなざわめきが広がった。
「事務所のランプが倒れて……カーテンに火がついただと? まずい。爆弾に火が移れば大変なことになる。それこそ全員死ぬぞ」
「殿下、どういたしましょう。突入いたしますか? とりあえず中にいる者たちを連れ出して爆弾の処理を……」
「いや、待て。まだなにかあるぞ」
レオンはすぐにでも動こうとする騎士たちを手で制した。
事務所近くの騎士がなにかを伝えようと手を動かし続けているのだ。
その動きを注視していたレオンは、ハッと目を見開くと「そうか……」とつぶやいた。
「この間のボヤ騒ぎが功を奏したな」
ニヤリと笑ったレオンに続き、彼と同時に意味を理解していた騎士たちも表情を緩めた。
「どういうことですか? なにがあったのです」
意思疎通を図るための手の動きの意味を知らないフェリックやラスペードの騎士たちは、一様に不安の声を上げていたが、国の重要機密でもあるその動きの意味を、教えるわけにはいかない。
「心配ない。もうすぐ解決できるから大丈夫だ。作業員たちも犯人たちも全員救出する」
「ですが、カーテンに火がついたとさっき……あ、火が、窓の向こうで火が揺れています。カーテンにかなり燃え移ったようです」
フェリックは焦った声をあげた。
事務所を見れば、フェリックが言うように窓にかけられているカーテンが燃えている。
ゆらゆら揺れる赤い火が、次第に大きくなっていく。