王太子の揺るぎなき独占愛
王城では、サヤとジュリアが洋ナシのパイを焼いていた。
サヤがジュリアのお見舞いを兼ねて作ったとき、一口も食べることができなかったレオンが悔しがっていたと聞いたからだ。
「お兄様って子どもっぽいところがあるのよね。これからいくらでもサヤに焼いてもらえるのに、私が全部食べたからすごく怒ったのよ」
焼き上がりを待つふたりは、小麦粉が散ってしまったテーブルをかたづけながら笑った。
王家の森から取ってきた洋ナシはちょうど食べごろで、多めに焼いてジークや使用人たちに配ることにしている。
「もう、ジュリア様おひとりでパイを焼くことができますね」
感心したようにサヤはつぶやいた。
ジュリアは洋ナシのパイが大好物だというステファノ王子のために、サヤから焼き方を教わり何度も焼いていた。
最初のころこそナイフで洋ナシの皮をむくこともできず、小麦粉をふるえばテーブルにまき散らしていた。
それでも諦めずに何度も焼き続けた成果が現れ、今日はほとんどひとりで焼いたのだ。
「王家の森に洋ナシが実ったら、送りますね。ステファノ王子にたくさん焼いてさしあげてください」
「ありがとう。でも、やっぱりサヤには敵わないわ。パイ生地のさっくり感が違うのよ」
ジュリアは腕を組み、首をかしげた。
「人によって生地の好みはありますから、ステファノ王子のお好みでいろいろ焼いてみてください」
サヤの言葉に、ジュリアは照れたように目を細めた。
「好みといえば、お兄様はどちらかといえばしっとりとした生地が好きみたいよ。といっても、サヤが作ったものならなんでもおいしいって言いそうだけどね」
「そんなことは……」
ない、と言いかけて、それもそうだなとサヤは口を閉じた。