王太子の揺るぎなき独占愛




 サヤが王城に居を移してすぐのころは、レオンは次期王妃がキッチンに出入りすることに驚いていたが、料理人や侍女たちと生き生きと料理を楽しんでいるサヤを見て、なにも言わなくなった。

 それどころか「今日はパンケーキの気分だけど、焼いてくれるか?」とリクエストするようにもなった。

 サヤは喜んで作っているが、王妃になればそうもいかないだろうと思っている。
 国王夫妻に課せられている公務の多さを考えれば、キッチンに一日中こもって料理を楽しむことは、できそうもない。
 王家の森の仕事の一部を引き続き行いたいと考えていたが、それもあきらめた。

 薬草の管理も、咲き誇る花を城下の花屋に届けることも、そして薬師として医師の手伝いをすることも、もうできない。

 それはこれまで培ってきた知識を封印するということで、もちろん残念ではあるが、これからはレオンを支え、国の平和と発展に寄与していくつもりだ。

 サヤは不思議とそのことに抵抗を感じていない。

 レオンとともに国のために力を尽くせることを幸せだと思っているからだ。

「私のパイを焼く腕が上がった以上に、サヤの刺繍の腕も上がったわよね」
「え、刺繍? そ、そんなことないです。まだまだジュリア様のように上手にできなくて落ち込んでしまうことばかりで」

 レオンのことを考えていたサヤは、ジュリアの言葉に慌てて答えた。
 パイを焼く前に、ビオラの刺繍を終えた軍服をジュリアに見せたのだが、ジュリアはその丁寧な仕上がりと美しいビオラに感動し、これでもかというほどほめちぎった。

 さすが兄と妹。
 ジュリアが目に涙を浮かべて喜ぶ姿はレオンの顔によく似ていた。


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