王太子の揺るぎなき独占愛
「レオン殿下……」
サヤはドレスを作業台の上にそっと置くと、握りしめていた刺繍針を針山に戻した。
その手は小刻みに震え、何度も針山以外の場所に針を刺してしまう。
どうにか針を戻し立ち上がると、視線を部屋の奥の棚に向けた。
しばらくの間そのまま一点を見つめたあと、サヤはやおら動き出した。
そして足を止めたのは、この間毒を入れた小箱をしまった棚の前だ。
色とりどりの刺繍糸や布がしまわれた棚の端に、ひっそりと置かれている小箱。
その中に毒が入っていることは誰にも知らせず、鍵をかけている。
次期王妃が毒を作るということは、王家でもごく一部の者しか知らず、ジュリアですらそのことは知らない。
サヤは小箱に手を伸ばすが、こわごわと指先で確認したあと、手に取るかどうかためらった。
サヤが毒をしまったあと、二度と手に取ることも開くこともないよう願ったのはつい最近のことだ。
そのとき、こんなに早く毒を意識するときがくるとは思わなかった。
レオンが自ら命を絶たなければならないときのためにと用意した毒だが、もしや今がそのときなのだろうか。
サヤは小箱に触れたまま棚に体を預けると、涙をこらえるように唇をかみしめた。
レオンが採掘場に向かったのは昨日だ。
まだ戻らなくても当然なのかもしれないが、サヤにはその見当すらつけられない。
なにが起こっているのか詳しく知らされてはいないが、サヤは万が一のことばかり考えてしまう。
国王として国を率いていくレオンを王妃として支えると決めたはずなのに、自分はこれほど弱かったのかと、情けなくもある。
このままではレオンを支えるどころか足手まといになりそうで、ずんと落ち込み、そして毒を飲んで命を絶った方がいいのはそんな弱い自分なのではないかと思ってしまう。