王太子の揺るぎなき独占愛



「毒……といっても、それぞれに飲んだことがあるし」

 計八種類の薬草を規定量混ぜて作っただけのもの。
 風邪を引いたときには誰もが医師から処方される薬と、優れた効能を持つリュンヌ。
 別々にだが、何度も口にしたことがあり、味の予想は簡単にできる。

「どっちも、苦いのよね」

 サヤは口の中に薬草の苦みを感じ、思わず顔をしかめた。
 たとえ王家の森でその薬草を大切に育てていても、苦いものはどうしても苦いのだ。
 効能に詳しく、病状の改善に必要なものだとわかっていてもやはり。

「絶対に、この毒はおいしくないに決まってる」

 力強い声でつぶやくと、目の前の小箱から慌てて離れるように後ずさった。
 そして、絶対に飲みたくないと、首を横に振る。

「まあ、おいしい毒なんて、毒になりそうにないけど……」

 サヤはそう言って、くすりと笑った。

「だけど……」

 死ぬ前に最後に口に入れるものがあの毒だとしたら、この世に未練ばかりが残って死んでも死にきれないかもしれない。

 どうせなら、おいしいものをたくさん食べてから死にたい。
 例えば洋ナシのパイとか……。

 サヤは作業台の端に置いた洋ナシのパイに視線を向けた。

「そうよ、あのパイみたいにおいしいものを食べてから、死にたい……って、なに考えてるんだろう私」


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