王太子の揺るぎなき独占愛
サヤは、ふとつぶやいた自分の言葉に、自分でおかしくなった。
毒を飲んで死ぬより、おいしいものを食べすぎて死にたい。
そんなこと、できるわけがないとわかっていても、自分ならなにを最後に食べたいかなと考え、そして、レオンならなんだろうかと想像した。
好き嫌いがないレオンのことだ、悩みに悩んで、最後は「サヤと一緒に死ねるならなんでもいい」と言ってくれないだろうか。
そんなことを想像し、サヤの頬は赤くなる。
そして、「一緒に死ねるなら、私もなんでもいい」と口の中でつぶやいた。
「あ……もちろん毒以外だけど。あの苦さは殿下と一緒でも、いやかも……」
再び口の中に苦みが広がり、サヤはそれを押しやるように頭を横に振った。
その反動で体がふらりと揺れ、足元にあった端切れを入れている籠を蹴ってしまった。
籠は勢いよくひっくり返り、その場に端切れが散乱した。
「……なにやってるんだろう、私」
サヤはひざまずいて端切れを籠に戻すが、その中にはサヤがビオラの練習で使ったものもいくつか含まれていた。
「わあ、これ、初めて練習したときの端切れ……」
まるでビオラには見えない、紫の糸の塊のようなもの。
最初はこんなに下手だったんだと、サヤは驚いた。
そして、練習済みの端切れを順に見れば、次第にキレイなビオラへと変化していく。
端切れの中には血の痕が残っているものもあり、針で指を何度も突いて痛さに顔をしかめたことを思い出した。
それでもあきらめず、何度も何度も端切れを使ってビオラがキレイに咲くようにと、練習を重ねた。
そして、軍服に刺繍をほどこす直前に練習した端切れを見つけた。
それは、糸の張りが一定で艶が安定し、グラデーションをつくるための色の切り替えも違和感なくできている。
なにより、ひと針ひと針に込めた気持ちがビオラとなって咲き誇っている。
レオンへの愛情が、あふれていた。